臨床教育学序説 (小林剛・皇紀夫・田中孝彦 柏書房  2002)

概要

 本書は、「臨床教育学」に関する現在の議論や研究の成果が幅広く収められている。  京都大学を初めとする大学での取り組みを実例としてあげながら、その必要性と方向性を明らかにしている。「いじめ」や「不登校」といった顕在化した教育現場の諸問題から、「学習不振」等の潜在化した問題まで、具体的で現実的な問題に取り組もうとする意図は共通でありながら、「教育学」内部の下位領域を統合した理論的基盤からのアプローチと「教育」に関連する諸学問を効果的に援用した理論的基盤からのアプローチとに異なりを見せていることがうかがえる。  

 本書では、様々な立場の論者が様々な論を展開しているが、概ねこの二つのアプローチがどのような住み分けるべきか、またどのように結びつくべきかといった点を示唆しているように思える。  

 教育現場に起こっている顕在化した諸問題に向き合う当事者としての「教師」や「親」からの強い要請は現実的な問題解決や効果的な対処法にあるといってよい。その経緯の中で、どうしても「カウンセラーの育成」など「臨床心理学」や「医学」からの新しいアプローチが「臨床教育学」の本流にあるように見えるが、本書は、それと同時に、教育の研究そのものが「臨床性」を備える時、今まで見えてこなかった様々な事象が明らかになる可能性を示唆する部分を多く持っている。  

 一つは「発達研究」における臨床的アプローチの可能性であり、もう一つは「教授-学習」研究における臨床的アプローチの可能性である。本書ではそれぞれに項が割かれ、詳細に論が展開されている。  

 最後に、本書が示唆する「臨床性」とは、教育現場の「多様性」を「多様性」として捉えることであろう。「カンファレンス」という事例分析の方法がもたらすものは多様な教育現場の事例一つ一つに対して改めてその固有性を見出す方法である。その分析の集積が「教育臨床学」を充実発展させるものとなるだろう。